純粋なる形象 ディーター・ラムスの時代―機能主義デザイン再考
府中市美術館
2009年5月23日(土)〜7月20日(月/祝日)
開館時間:10:00 - 17:00(入場は16:30まで)
月曜日休館
入場料:一般800円、高校生・大学生400円、小学生・中学生200円
主催:府中市美術館、日本経済新聞社
ファインアート中心のいわゆる美術館で企画、開催されたデザイン展である。
府中美術館のコンセプトは「生活と美術=美と結びついた暮らしを見直す美術館」とある。2000年にオープンし、過去にリートフェルト展などの好企画をやっているらしい。なので、今回の企画展は「使い手の立場に立ったデザイン」という素材と機能の本質を追求した仕事を振り返り、モダンデザインの理念を自分たちの生活と美術を見直すきっかけとすることで、美術館のミッションに適っているのだそうだ。
大阪のサントリーミュージアム[天保山]で昨年この企画展が開催されていたのは知っていたが、さすがに出かける余裕も無く、東京への巡回展はありがたい。
この展覧会に先立ち、5月23日に武蔵野美術大学で開催されたシンポジウムはディーター・ラムス氏自身が登壇し、盛況かつ示唆に富んだものだったらしいことが、あちこちのブログから伺い知れた。
東京でBRAUN展が開催されたのは2005 年の9月から10月にかけての約1ヶ月、AXISギャラリーだった。その時は「ブラウン展ー形を超えたデザイン」というタイトルで、夜19時まで開場していたので会社の帰りに寄り、ワンフロアで結構充実している展示に見入った記憶がある。76ページのパンフレットを今でもデザインの10原則をはじめ、デザインの何たるかを振り返るために手に取ることがある。
今回、府中美術館というロケーションと開館時間の制約条件から平日に訪れることは難しいので、日曜に車で訪ね、一人でじっくり見ることにした。最寄りの駅からは20分近く歩いて、府中の森公園の中を通り抜けたところにある。夏を思わせる今日のお天気に、公園の中は水遊びに興じる子供達の歓声がとても愉しそうに響いていた。車による来場者には公園の一番奥に60台の無料駐車場があり、そこから数分の場所に美術館は位置している。今日はG1レースが競馬場であるので、午前中の空いている時間に移動、道路が混雑するお昼過ぎには府中を退散した。
展示は、AXISの時とは比較にならないほど充実し、かなりの物量であった。
最初のコーナーでデザイ
ンの流れを年代によって俯瞰できるようになっていて、デザインの初心者にも視覚的に分かり易く理解が進むよう工夫がされている。
その後はディーター・ラムスを軸に、BRAUNのデザインを巡って行く構成になっている。
展示されているデザインは量産製品なので、一部はアクリルケースに納められているものの、多くはグルリと眺め回ることができ、外観の部品構成から微細なディティール、繊細な表示に至るまで、じっくりと観察できる。
機能的、素材的にも当時としては画期的な提案であったはずで、50年を経て今でもまったく古い新しいを超えた普遍的なデザインであることは、いかに合理性を追求し、社会的な理想を目指したかをそのもの自身が雄弁に語っていた。
最後にディーター・ラムスが1962年にデザインし、現在でも生産されている620 Chair Programmeというソファに座りながら、Who is Mr.Braun?(ミスターブラウンとは誰か?)というDVDを約1時間見た。本人のインタビューから、結果に至るまで、いかに自身や企業内部でのマーケット部門、技術部門との対峙、葛藤が凄まじかったが伺い知れる。常に彼らは「増やす」ことを要求し、ラムス氏は「減らす」ことで「より良く」という彼自身の哲学を貫くにはいかに強靭あな精神力が必要だったか。戦いの中で、アイデアが実現にまで至ったのは5%にしか過ぎないと。
このDVDには、ディーター・ラムス氏の私生活も紹介されていた。欠点だらけの自身は、いつも成長して生きたいと考えているし、強い意志を作るには、よい私生活が大事であると彼は語る。理解と包容力のある良きパートナーが必要だと。そして映像で紹介された個人邸の庭は明らかに日本庭園だった。盆栽も映っていた。
DVDの中で 日本ではディーター・ラムス氏が神格化されていると語る人もいたが、彼がモジュールや可動性の提案において、日本の用と美に共感していたのだろうという推察も容易だ。そして重要なのは日本のデザイン界が彼に共感し、影響され、学んだ工業製品と工業デザインに与えた影響も計り知れない。某社の30年前のデザインはまんまじゃないか、と言わざるを得ない。
最後のコーナーに、ラムスがデザインした製品へのオマージュともいえるAppleや 深沢直人氏、ジャスパーモリソンがデザインした製品が展示されていることが、デザインという文化を創った功績を讃えているように思えた。
DVDで本人が語る内容の示唆はもちろん非常に興味深いが、ソットサスやサッパーらがディーター・ラムスを、そしてドイツデザインを語るコントラストと自己批判的なところがなんとも修行僧のようなラムスに対し、人間的で色彩があって面白かった。
この映像は1時間とちょっと長いけど、椅子に座って鑑賞することをお薦めします。
また、ミュージアムショップで販売されている800Pで4,000円する図録、これがまた大変な充実ぶりで、買って損はないと思う。
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