« ふたつの展示会 | トップページ | プロトタイプ »

2009年11月10日 (火)

ベルリンの思い出

Dscf6200

9日をはさんで、「ベルリンの壁」崩壊20周年について様々な角度からの報道がされている。

もうベルリンの壁を知らないを世代も多い。

自宅の近くのとあるドイツ企業の社屋のエントランス前には、数年前からベルリンの壁の一部が保存設置されている。よく前を通るのだが、壁を見るたびに思い出してしまうことがある。

30年前にドイツ旅行をした時に、ドイツに留学していた先輩と二人で、フリードリッヒシュトラーセ駅の検問所(通称「涙の宮殿(Tr?nenpalast)」)を異常に緊張しながら通過した。
当時 外国人旅行客が西から東に入る場合、Sバーンか地下鉄でこの検問所を通る
しか方法はなかった。だからとても混雑していたが、覗き窓から国境警備員のものすごく威圧的かつ鋭い視線をあびつつ、かなりの確率で個室に連れて行かれて取調べられると聞いていたので、ただならぬ物々しい雰囲気にかなりビビッていた。(とかいいつつ、事前に西ドイツマルクを東ドイツマルクと1:4でドイツ銀行の窓口で闇交換して持ち込んだりしていたのが要因なんだけど)
インターネットなんかもちろん、格安航空券もまだまだマイナーな時代(私は当時一番安くかつ最短時間だが最もリスクの大きいアエロフロート機で、何もないソ連のモスクワ空港でトランジットし、フランクフルトと成田を往復した)、情報も本で入手できる程度、若気の至りの無謀な初めての海外旅行でもあったので、相当に強烈な印象だった。
(ハノファーからベルリンまでの夜行列車の二等車内も結構スリリングだったけど)

西から東に入ったとたんに カラーからモノクロになったくらい街から色彩が消えてしまったことと、自動車はトラバントという60年代のデザインと性能のままの小型車しか見当たらず、戦後まもなくから時間が止まってしまったような錯覚に陥るほどの風景と街の暮らしに、これまた強烈な衝撃を受けた。

検問所では、西ドイツの25マルクを東ドイツマルクに強制両替せねばならないのだが、東ドイツマルクは持ち出し禁止なので、西側の外貨を手に入れたいがために使い切らせようという魂胆だった。東ドイツマルクを持ち出したところで西側では全くは価値がない。かといって東ドイツは物価が安いので、いくら腹いっぱい食べても全然お金を使い切れない。
贅沢品のお酒は高いがそんなにべろべろに酔っ払えないし、欲しいような高いモノもそんなには見あたらないのだ。

なので、東ベルリンのお土産には、モーツァルトの弦楽四重奏曲全集全二巻の楽譜を買って帰ることを最初から目的にしていて、すぐに楽譜屋に向かった。銀座のヤマハの4分の1以下くらいの値段で買えたと思う。その後、東ベルリンの唯一の近代建築であったテレビ塔に上って、展望台で食事をしてお酒を飲んだりという東独市民にはあり得ないとんでもない値段の贅沢をしてもそれでも全く使い切れなかった。

夕方再びフリードリヒシュトラーセ駅の検問所を通ったのだが、西から東の肉親に会いに来た市井のおじさんおばさん達が帰るためのすごい行列で、観光目的の日本人は特に目立つので、またびびりながら通過した。西から東への入国は難しくないが(外貨獲得のため?)、東独の人が西に行くのは非常に厳しく、それを取り締まるためにか、検査官は威圧的な雰囲気を漂わしていて、その異様な緊張感は平和ボケしていた日本の若造には想像を絶していた。朝は笑顔の出迎えが、夕方には別れを惜しむ切ない光景だった。これが「涙の宮殿」の名前の由来。

検問所だけでなく、実際、西側から眺める壁の向こう側の緩衝地帯には地雷が埋めてあり、見張り小屋にはライフルを構えた兵隊がことらをにらんでる姿を目の当たりにした「ベルリンの壁」の鮮烈な印象は忘れるはずもなく、青い学生だった私は、共産圏ということはどういうことなのか、過去と現在と未来を考えざるを得なかった。

それから10年たたない頃、ベルリンの壁は崩壊した。

そのとき、ひとつの書体が発表された。

Rotisという書体だ。

デザインは20世紀ドイツを代表するグラフィックデザイナー、タイポグラファーであったオトル・アイヒャー。

全く新しい真の自由、市民社会の融和を目指してこの書体は制作された。
ちょうどベルリンの壁崩壊という時代も重なって、
この書体は現在と未来の希望を象徴する書体として語られることも多い。

私は 数年前に関わった新しい研究所設立の仕事の中で、館内サインにこの書体を
採用したのだった。

|

« ふたつの展示会 | トップページ | プロトタイプ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/166759/46732369

この記事へのトラックバック一覧です: ベルリンの思い出:

« ふたつの展示会 | トップページ | プロトタイプ »